「たまには都会の喧騒を離れて、どこか遠くへ行きたい」
そんなふうに思ったとき、わざわざ新幹線や飛行機に乗らなくても
極上の“非日常”を味わえる場所が広島市内にあります。
それが、瀬戸内海に浮かぶ島「似島(にのしま)」です。
観光地化された華やかなスポットや最新のレジャー施設があるわけではありません。
しかし、ここには「何も無いからこそ、五感が研ぎ澄まされる」という
現代人にとって最大の魅力が詰まってました。
今回は、そんな似島をのんびり歩いた旅の記録をお届けします。
旅の始まりは宇品港から。20分のショートクルーズへ

旅の起点となるのは広島の海の玄関口、広島港宇品旅客ターミナル。
青空に映える近代的なガラス張りのターミナルビルを見上げながら、フェリー乗り場へ向かいます。

乗車するのは、どこか親しみの湧くレトロで力強い佇まいのフェリー。
平日の昼間ということもあってか、観光客らしき姿はまばらで
島民の足としての穏やかな空気が流れています。

港を出ると前方には通称「安芸の小富士」と呼ばれる美しい稜線を持った島が近づいてきます。
乗船時間はわずか20分。
刻々と変わる海の景色を眺めているだけで、あっという間に似島へと到着しました。
時が止まったかのような、ノスタルジックな港町

似島の玄関口、似島港旅客待合所
島に降り立つと、まず驚くのがその「静けさ」です。
車の走る音もほとんど聞こえず、ただ波の音と鳥の声だけが響いています。

港周辺を歩いてみると、昭和の時代にタイムスリップしたかのような光景が広がってました。
錆びた看板に「COFFEE HOUSE DRY」と書かれた、かつての喫茶店でしょうか。
シャッターの閉まった静かな佇まいや、年季の入った自動販売機が
この場所が重ねてきた月日の長さを物語ってます。

ここには、観光客向けに無理に着飾った景色はありません。
ありのままの暮らしの営みと、穏やかな時間がただそこに流れている‥
その「飾らなさ」が、歩く人の心をじんわりと解きほぐしてくれます。
瀬戸内の青に包まれる、南海岸沿いのプロムナード

港の集落を抜けて、反時計回りに歩いて行きます。

途中にはリゾートマンションの廃墟(?)の姿も‥

特にこれといった名所はありませんが
この景色の中を歩いているだけでも
旅をしている気分を存分に味わえます(実際には暑いですが‥)。

振り返ると、海に沿って美しい石積みの堤防と緩やかな一本道。
瀬戸内海の真っ青な海と、青々とした島の緑。
視界に入るのは、青と緑、そして太陽の光を反射してきらめく砂浜だけです。

歩みを進めると、海面に整然と並ぶ木製の仕掛けが目に飛び込んできました。
広島名物である「牡蠣の養殖場」です。
波に揺れる養殖いかだの風景は、まさに瀬戸内ならではの旅情を誘います。
どこまでも続く穏やかな海面を見つめていると
日頃の小さな悩みごとがどうでもよくなっていくから不思議です(笑)。
歴史の記憶を今に伝える、静かなモニュメント

島の東側にはユーハイム歓迎交流センター。
なぜ神戸にある会社の名が付くのかは‥
『似島は当社創業者カール・ユーハイムが第一次世界大戦で捕虜として日本に連行され収容されていた似島独逸俘虜収容所があり、1919年に広島県物産陳列館(現・原爆ドーム)にて開催された「似島独逸俘虜技術工芸品展覧会」に出品するため日本ではじめてバウムクーヘンを焼きあげたゆかりの地でもあるので、似島独逸俘虜収容所の跡地である似島歓迎交流センターの呼称は極めて重要であると考えています。ユーハイムの「お菓子には世界を平和にする力がある」の理念にもとづいて、歴史と自然のある似島の活性化に寄与するとともに、バウムクーヘンを通じて多くの方に来ていただける施設になるようにとの想いを込めて命名しました。』引用:ユーハイム(株)
ひと言でいうと、似島がバウムクーヘン発祥の地だからです。
そして、似島は、ただのどかなだけの島ではありません。
かつては日清戦争以降、陸軍の検疫所が置かれ
第一次世界大戦時にはドイツ兵の捕虜収容所が設けられるなど
日本の近代史において重要な役割を果たした「歴史の島」でもあります。

さらに海岸沿いを北上していくと、威厳に満ちた佇まいの「後藤新平像」に出会いました。

日清戦争後に臨時陸軍検疫事務官長として、この地で未曾有の規模の検疫事業を指揮した人物です。
彼の視線の先には、今の平和な広島の街並みが広がっています。

さらに進むと、海に向かってぽつりと残された「軍用桟橋跡」の石積みが現れます。
崩れかけたコンクリートと石の隙間からは夏草が生い茂り
かつて多くの人々が行き交った場所も、今はただ波に洗われるだけの静かな遺構となっています。
華やかな観光地とは一線を画す、こうした歴史の生々しい爪痕が
この島の持つ独特の深みと静謐(せいひつ)さを形作っているのかもしれません。
あとがき:何もしない贅沢を味わいに

東海岸の似島学園の前には似島学園前桟橋があって1日に数便フェリーが寄港します。

宇品行きのフェリー入港時はこの賑わい!。
本土へ帰る小学生集団や、島の人々にとってはなくてはならない場所です。
似島には、お洒落なカフェも、行列ができるお土産屋さんもありません。
しかし、ただ青い海を眺め、波の音を聞きながら歴史の面影をたどる‥
そんな「何も無い」時間を過ごすことこそが、この島がくれる最高のギフトでした。
情報過多な日常に少し疲れたら、カメラを持って
ぜひ似島の静かな時間に浸りに行ってみてください。
(終)

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