焼きそばとかまくらの街 横手

人口約7万人、秋田県南部の中心都市であり
冬の風物詩「かまくら」でも全国にその名を知られる横手市。
そんな歴史ある雪国の街の玄関口、JR横手駅前に降り立った筆者は
目の前に広がる光景に思わず圧倒されました。

かつてどこにでもあった「地方の鄙びた駅前風景」を想像していると
完全に裏切られることになる‥
そこにあったのは、ガラスカーテンウォールが鈍い光を反射するスタイリッシュな近代建築と
天を突くようにそびえる大型のクレーンたち‥
まるで大都市郊外か、新幹線の駅前のような光景‥
この街は今、空前の再開発ラッシュの渦中にあります。
しかし、駅前広場を一歩ずつ歩き進めるうちに、奇妙な違和感が膨らみ始めました。
都会的な景観と裏腹に
人がほとんどいない‥
まるで巨大なオープンセット。美しすぎる「あおーな」の静寂

まず目を引くのは、2024年にオープンしたばかりの横手市生涯学習館「Ao-na(あおーな)」。
エントランス前に鎮座する、アルファベットの「A」を模した鮮やかなグリーンの巨大モニュメント。足元を見れば、グレーとホワイトのチェッカーフラッグ柄のタイルが美しく敷き詰められてます。
しかし、そのモダンな広場に佇んで周囲を見渡しても
すれ違う人は数えるほどしかいません‥。
時折、自動ドアからポツリと人が出てくるものの
広大な空間に対してあまりにも密度が低すぎる‥
もちろん、館内には地元の学生を中心にそれなりに人は居るのですが
入口の洗練されたデザイン空間に誰もいない様子は
まるで映画の撮影のために作られた「未来都市のオープンセット」に
迷い込んでしまったかのような、不思議な錯覚でした。
近代化の象徴「HOTEL NOSTAL YOKOTE」とクレーンの群れ

あおーなの向かいには、さらに圧倒的な存在感を放つ複合ビルが建ってます。
低層階には「JA秋田ふるさと」のオフィス、上層階にはホテル「HOTEL NOSTAL YOKOTE
(ホテルノスタル横手)」が入る、地域の新たなランドマーク。
ここが人口数万人の北東北の地方都市であることを、一瞬忘れさせるほどの洗練さを放ってます!。

ビルのすぐ隣に目を向けると、立体駐車場が長く続き
その奥では大型のクレーン車が何基も腕を伸ばして稼働してました。
10階建ての分譲マンションを建設中です。
重機が動き、街の骨組みが次々と塗り替えられていく様子からは
間違いなく「地方都市の意地と躍進」が感じられます。
それなのに、やはり足元の歩道を行き交う歩行者の姿は
驚くほどまばらで、通り過ぎる乗用車のエンジン音だけが
道路に虚しく響いてました‥。
賑わいはいずこへ‥対比が際立つ「Y2(わいわい)ぷらざ」

あおーなの北側にある交流拠点施設「にぎわいひろば」と「ニッパツY2ぷらざ」。

ここもガラス張りのアトリウムや、雨や雪を凌げる立派な全天候型のアケードが整備された空間です。
カフェスペースのようなお洒落な店舗も入っている「にぎわいひろば」という名の通り
本来なら学校帰りの高校生が談笑し、買い物帰りの市民が憩う場所として設計されたのでしょう。
しかし、筆者が訪れた休日の午前中は、文字通りのガランとした大空間が広がってました。
ただ曇り空から漏れる光が反射しているだけ‥
路面にぽつんと残る雨の水溜まりが、いっそうその静けさを際立たせてました‥。

少し目線を外すと、昭和の面影を残す「横手駅前歯科医院」の年季の入った看板や
シャッターの下りた古い建物が目に入ります。
新しく未来的なビルと、取り残されたような古い街並み‥
そしてそのどちらの空間にも共通する「人の少なさ」。
このコントラストが、訪れる者に複雑な感情を抱かせます。
「都会化」という箱を、どう満たしていくのか

綺麗に区画整理された道路、洗練された公共施設、次々に建つホテルやマンション。
行政や開発に携わった人々が「魅力的なコンパクトシティを作ろう」と奮闘した成果は
この美しい景観を見れば一目瞭然です。
決して無駄な投資だとは言いたくありません。

しかし、建物という「箱」がどんなに都会的で立派になっても
そこを歩く「人」が定着しなければ、それはどこか冷たいモニュメントのようになってしまう‥。
車社会である地方都市特有の「歩行者はいないが、車の中には人がいる」
あるいは、休日の日中という時間帯のせいかもしれない‥。
それでも、この美しすぎる駅前の静寂は
日本の地方都市が直面している「人口減少」という厳しい現実を
皮肉にも最も綺麗な形で、可視化してしまっているような気がしました。

激変する横手の街並み。
数年後、すべてのクレーンが姿を消し、再開発が完全に完了したとき
この美しい「あおーな」の広場や「Y2ぷらざ」に
本当の「にぎわい」は戻ってくるのでしょうか。
(終)

コメント